飲む糖尿病の薬 犬猫の「センベルゴ」

新しい糖尿病の薬「センベルゴ」が2024年9月から販売されます。犬猫用の経口薬です。

海外では2023年から使用されています。
海外では、インスリン使用中、またはインスリン治療歴があるネコちゃんには使用すべきではない、とされていますが、日本ではインスリン使用中でもケトンが消えたら、インスリン治療からセンベルゴに切り替えて良いとされています。

どちらが正しいか現時点では不明なので、どのように考えればいいか、できるだけ専門用語を使用せずにお話しします。

また、他の獣医師さんたちが、センベルゴの素晴らしさはたくさん書いてくれていますので、私はあえてセンベルゴの注意点、疑問点をアナウンスしたいと思います

関係者の皆さん、ごめんなさい

人間の糖尿病専門医さんにもお話を伺ったのですが、人間ではセンベルゴと同じ薬(名前は違いますが)は2013年に認可されていますが、2024年10月時点では、使える状況が限られているらしく、ほとんど使われていないとのことです。

人間の糖尿病の最新の治療は、やはりインスリン。
ただし、以前のような自分で自分に注射をするのではなく、お腹に小さい機械を埋め込み、その機械が血糖値を測定してくれて、血糖値が高くなったらその人に合った適度な量のインスリンを体内に入れてくれるそうです。
なので、以前のような煩わしい治療は必要なくなっているようです。

その上で
「どう使用するべきか」
は、かかりつけの獣医師と良く相談して決めてください。

ネコちゃんのご家族にとって、この薬の最大のメリットは飲み薬ということです。
やはり糖尿病の治療といったら、インスリンを毎日注射するというのがメインですが、糖尿病の状態によっては毎日ネコちゃんに注射をしなくてもよくなるかもしれない薬です。

糖尿病という病気の本質を簡単に説明すると
「尿に糖が混じる病気」
ではありません。

尿とは身体の中の余計なものを捨てるためにします。いわゆるデトックスです。

たしかに尿中に糖は出ます。
しかし、それ自体が悪いというわけではなく、本来、糖分はとても大事な栄養素なので、血管から各細胞に運ばれて使われます。
尿から外に捨ててしまうのはもったいないので尿の中に糖は出ないのですが、出てしまうくらい糖が、余ってしまっているから「こんなにいらないから捨ててしまおう」となっているのです。

糖尿病とは
身体の中の糖が使えていない

余っている

尿で捨ててしまおう

という不思議な状態になる病気です

糖尿病について詳しく

センベルゴを使う上でとても大事なことなので、糖尿病についてもう少し詳しく話します。

血管の中の糖分(血糖値)は、体のエネルギーになる予定なのですが、血管の中にいても糖分は働けません。

血管の中の糖分は、各細胞(筋肉など)に入って、筋肉などを動かすエネルギーとして使われます。

その時に、血管の中にある糖分を、筋肉などの細胞に移動させるためのホルモンが、膵臓から出るインスリンです。

糖尿病には

①膵臓からインスリンが出なくなる(1型糖尿病)
②インスリンはある程度あるが、何らかの原因で効きづらくなる(2型糖尿病)

の2つの型があります

つまり少し医学的にいうと
インスリン(血管の中にあるエネルギーを細胞に届けるホルモン)が出ない、またはあるが上手く働かない
というのが糖尿病という病気です。

糖尿病とケトン

そして、ここからがセンベルゴに大きく関わってくるところです。

各細胞たちは、糖分というエネルギーが血管から入ってこなくなると、エネルギー不足を解消するために脂肪を使ったりします。
脂肪をエネルギーとして使うと、ゴミとしてケトンという物質ができます。

インスリンが足りない(または上手く使えない)

血管から細胞にエネルギー入ってこない

困った。じゃあ脂肪を使うか

エネルギーとして脂肪を使うとケトンができる
(車のエネルギーとしてガソリンを使うと、排気ガスがでるような感じです。ガソリン→エネルギー+排気ガス)

こんな感じです。
これの何が良くないかというと、ケトンが溜まってしまうと、身体に良くないのです。
(もう少しだけ詳しくいうと、ケトンが溜まると、身体は酸性に傾きます。身体が酸性に傾くことをアシドーシスと言います。なので、この状態をケトアシドーシスと言います。アシドーシスになると各細胞が上手く働かなくなるイメージです)

もちろん他にも良くないことは沢山ありますが、今回はこれだけ覚えてください。

センベルゴとケトン

そして、センベルゴ。使う時の条件が「ケトンが出ていないこと」です。

もちろんセンベルゴの使用時には、かかりつけの獣医師に相談して、注意点をしっかり聞いてください。
そして、できるだけ頻繁に、ケトン出てないかを調べてあげてください。

順番としては
血中ケトンが出て→尿中ケトン
なので、本当は血液中のケトンを測ってあげた方がいいのですが、自宅では難しいので、ご自宅では尿中のケトンを測ってあげてください。

センベルゴは、血中の糖分を尿中に流す、という薬です。

センベルゴがなぜ使えるのか

しつこいですが、再度糖尿病についての復習です。

糖尿病

血管にある糖分を細胞に移動させるインスリンが出ない(少ない、あるが効きづらい)という病気

細胞がエネルギー不足になり、脂肪をエネルギー源として使用することにより、ケトンが発生して、身体が酸性になる
(他にも、血管内に糖分が多いことにより、眼や血管や神経など様々なところに悪影響があるのですが、長くなり過ぎてしまうので割愛します)

なので、センベルゴを使用しても、血中の糖分が細胞に入ることはなく、細胞のエネルギー不足は変わりません。

では、なぜ使えるのか

猫の糖尿病は2型糖尿病のことが多くみられます。

2型糖尿病はインスリンはあるが上手く使えていないという状態

上手く使えていないだけで、少しは使えているから
血中の糖分は、何とか働けているインスリンのおかげで細胞にいくらかは入っている
なのでケトンは出ていない

まあ、血糖値は高いけど、ケトン出てないってことは、インスリンなんとか使えてはいる
でも血糖値が高いことも良くないから下げておこう

センベルゴで血管内の余計な糖分は尿にじゃんじゃん流しちゃおう

血糖値下がる(血糖値が下がることは良いことだから、他の合併症のリスクが下がったり、インスリンが効きやすい環境になったり、環境が良くなった(血糖値が下がった)ことで膵臓さんもインスリン作りやすくなったら良いな)

という薬です。

しかし、2型糖尿病も病気が進んでいくと…
どんどんインスリンが働けない状態になっていき(少なくもなっていき)、細胞のなかに糖分が入らなくなっていくので、1型糖尿病と同様に細胞は脂肪をエネルギー源として使用してケトンが出ます。

このケトンが出ている状態になったら、細胞が使っているエネルギー源は「糖分<脂肪」ということになり、脂肪をメインに使っている状態になってしまいます。

糖分をメインのエネルギー源にしてもらうために、インスリンの量を増やさなくてはいけないので、インスリン注射が必要になります。

つまり
ケトンが出ている

脂肪がメインのエネルギー源ということ

上手く使えているインスリン足りない

インスリン足して、糖分を細胞に入れなきゃ

インスリン注射

センベルゴの副反応

嘔吐34.5%
体重減少34.1%
多尿17.5%
ヨダレ11.1%
脱水10.7%
糖尿病性ケトアシドーシス+ケトン尿10.7%
食欲不振8.3%
元気消失7.9%
など

半分の子(51.6%)に、軟便や下痢が出ると言われています。ただし、何もしなくてもすぐに改善する子もいるようです。

センベルゴ使用中は、血糖値が正常にも関わらず、ケトアシドーシスになることがあります(その際はすぐに使用を中止して、ケトアシドーシスの治療を開始してください)。
センベルゴ使用開始14日以内に起こることが多いので、特に開始後2〜3日は毎日しっかり調べた方がいいそうです(放っておくと、やはり命の危険があります)。

体重減少や、ヨダレがでたり、お水を沢山飲んで尿を沢山するようになったりもします。(糖尿病は元々、多飲多尿のある病気ですが)
人間では、尿中に糖が多くなるので、尿の細菌感染が問題になるとありますが、ネコちゃんは不明です。

糖尿病性ケトアシドーシス(ケトン尿が出る子も含む)の場合、今までにインスリン治療を行なったことがある猫ちゃんは、インスリン治療歴がない猫ちゃんに比べて副反応が起こりやすいというデータも出ています。

インスリン治療歴がない猫ちゃんは10.7%
インスリン治療歴がある猫ちゃんは31.6%

これが欧米でインスリン治療歴がある猫ちゃんがセンベルゴ治療を認可されていない原因だと思われます。
日本ではインスリン治療歴のある猫ちゃんでもセンベルゴを使用していい、とされていますが、かかりつけ医さんと相談して気をつけて使用してあげてください。

センベルゴの使用方法は、1日1回、直接飲ませるか、ご飯に混ぜてあげてください
体重1kgあたり1.0mgという量で使用するのが1番効率が良いとされています(1.0mgだと治療成功率85%、0.5mgだと治療成功率80%)。

インスリンからの切り替えは、センベルゴ使用開始の前日夜のインスリンを打たずに、翌朝からセンベルゴを開始します。(センベルゴとインスリンの作用している時間が被ってしまうと、低血糖の恐れがあるので)

インスリン治療よりもセンベルゴ治療の方が糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高い可能性があると言われているので、モニタリングは慎重に行なってください。
ケトンが出ているのを見逃して、ケトアシドーシスになると、本当に危険な状態になります。

自分の家の猫ちゃんに注射を打つのは怖い、かわいそう
そもそも家では怒りん坊だから打てない

などの要因があるご家庭では治療の選択肢として入ってくると思いますが、人間の方では認可されているのにも関わらずあまり使われてないということも含め、まだまだ分からないことが多い治療薬だと2024年10月時点では感じています。

難しい話を最後までありがとうございました。

以上のことから、センベルゴは

2型糖尿病の時 かつ ケトンが出てない時

食欲があり、元気があり、脱水がなく、嘔吐下痢がない状態の糖尿病の時
(このような状態の糖尿病をハッピー糖尿病と言います)

に使用できる薬です。

たとえネコちゃんでも、1型糖尿病や、脳や妊娠からの糖尿病の時には使用できません。

糖尿病になってしまった大事なネコちゃんに「注射を打たなくていい、魔法のような薬」というわけではなく、まだわからないこともあるので慎重に使ってあげましょう。

犬の胆泥症とウルソについて

「胆嚢(たんのう)が汚れているから、お薬出しておきますね」 これは必要ないことが多いです。

あなたの愛犬はずっとウルソを飲んでいませんか?

もちろん、ウルソが必要な犬もいますが、多くの犬にとって必須の薬ではないというエビデンスがが出ています。

犬の胆泥症とは、胆嚢内に胆泥と呼ばれる濃縮された胆汁がたまる状態を指します。

胆泥は固形化せずに流動性を保っているものの、エコー検査で見ると、胆嚢に沈殿物があるように見えることが特徴です。

しかし、この胆泥自体は通常、犬に症状を引き起こすことは少なく、健康リスクを伴わないケースも多くあります。

以下は犬の胆嚢のエコー画像です。

犬の正常な胆嚢

矢印の黒いところが正常な胆嚢です。

エコーで真っ黒に映るところは液体であり、胆嚢は本来、このように真っ黒に映ります

犬の胆泥症(可動性)

これが胆泥症の胆嚢です.
黒いところと、白いところ(グレー)の境目が、一本の線で分けられる時は、可動性の胆泥症です。
この場合は治療が必要ない胆泥症といえます。

犬の胆泥症(胆石になりかけ)

前の画像とは違い、一本の線が引けません。
これは、胆泥症から胆石になりかけている途中の状態です

犬の胆嚢粘液脳腫

白いところと黒いところが混ざり合ってゴチャゴチャしています。
これは、胆嚢粘液嚢腫と言われる胆嚢内がゼリーのようになって流れが悪くなっている状態です。
危険な状態のことが多いです。

健康診断などでエコー検査をした際に「胆嚢が汚れていますね。お薬始めましょうね」と指摘され、胆嚢の薬を始めるワンちゃん(ネコちゃんではあまり経験がありません)を良く診察します。

実は薬を必要としないケースが多いのです。

必要のない薬を長期間服用しているワンちゃんが多いのを知っているご家族さまは少ないです。

しかし、獣医師が読む胆嚢疾患の最新の勉強会やセミナーの資料では

「胆泥自体の意義は非常に限定的であり、少なくとも”胆泥症であるから治療を行った”、”胆泥を改善させることを目的に治療を行った”などの考え方は現時点で誤りである」

とされています。
また、

「胆泥のある犬45頭を1年間追跡調査した結果、症状・血液検査の異常を呈した犬は1例もいなかった」

とされています。

もちろん、ウルソやスパカールといった、いわゆる胆嚢の薬が必要な子たちもいます。全ての犬に必要がないと言っているわけではなく、必要のない子に出されているウルソが多すぎるということです。

これはいわゆる経営面のために出されているか、知識のアップデートがされていない場合がほとんどです。

ウルソを長期間使っていても、副反応が出ることはマレですが、必要のない薬品を身体に入れるのは良いことではないと思います。

「胆泥があるから薬を飲む」という概念から、「本当に薬が必要なケース」を獣医師が見極めることが重要です。

ちなみに、ウルソ同じように必要のない子に出されていることが多いという点では、甲状腺機能低下症の薬も同じことが言えます。

いつもお伝えしていることではありますが、1人の獣医師が全てを診る時代ではなく、どんなに良い獣医師でも、苦手な分野がありますので、

もしかしたら、今の治療ではないかもしれない
もしかしたら、他の先生にも診てもらった方がいいかもしれない

という気持ちは持っていた方がいいと思います。